上には上がいる

先日、西茶屋の検番で、花街の情緒を味わった。
地元の会社員風情の人が多かったが、観光客もいた。
埼玉の方と、ロンドンから来られたご夫妻と親しく会話させってもらった。大いに盛り上がった。
ロンドンからのご夫妻は、次の日大阪の国立文楽劇場で、文楽を鑑賞すると言っていた。
私も文楽はとても興味がある。

歌舞伎の三大名作、「菅原伝授手習鑑」「義経千本桜」「仮名手本忠臣蔵」はもともと、大阪の人形浄瑠璃の芝居小屋である、竹本座で生まれたものである。
歌舞伎の演目は、人形浄瑠璃から取りいれられた演目が実は多い。

義太夫を語る「太夫」、それとかけあう太棹の「三味線」、「人形」の三位一体の芸術。
3時に見たBSで、人形浄瑠璃人間国宝吉田蓑助の息子、吉田蓑次を取り上げていた。
18歳から10年間「足使い」の修行を続けた。現在28歳。
やっと人形のかしらや胴体を操る「主遣い」をやらせてもらった。

私の農業もまだ「10年やっているがまだ足使いかよ?」


マニュアルや説明書が無いと、おれには無理と辞めていく弟子が多い。今の若いものなら当然だろう。
実際、主遣いの手本を教えていたが、師匠は何も言わない。
芸は教えて身につくものじゃない、盗め、というこの世界の教え方。

文楽の世界では、師匠の存在は何よりも大きい。

私の好きな、人間国宝竹本住大夫。もう80歳近いと思うが、彼には尊敬する兄弟子、人間国宝竹本越路大夫がいた。88歳に稽古をつけてもらう。

文楽の修行に、一生では足りなかった、もう一生ほしかった。」と引退の時に語った越路大夫。現役を退いても、語りは絶品。

太夫と越路大夫が語る義太夫を聞き比べるとと、素人の私でも、越路大夫のほうに軍配が上がる。
上には上がいるものだ。

弱冠28歳の、吉田蓑次、最後に記者に言った言葉が印象的だった。

「また来てください。一生ここでやっていますから。」